Side by side
ホロウ・シカエルボク




消防車のサイレンが街にこだまする真夜中
自発的な夢遊病のゲバラのシャツを着たガキどもが溢れ出て
革命とは程遠い犯行を繰り返す、おお
体制にとって彼らの存在は引っ掻き傷にもならない
世論がまるで一大事のように騒ぎ立てるだけさ


60年代のアジテーションをそのまま現代に持ち込んで
時代を描いたりなんか出来るわけがない
いま一番アバンギャルドなのは
グダグダ言わずに黙々と示してみせることさ
喋るのが好きなやつは結局喋るだけになっちまう


コーヒーの店のカウンターの一番奥の暗がりで
目立たないようにペッティングを繰り返すニキビ面のカップル
カフェ・オレを入れながら店員が苦笑いしてる
きょうびの常識じゃ非常識をたしなめるのはご法度らしいからな
始めちまった瞬間にぶっ放したら少しはすっきりするかもな


どこぞのファイティング・マンはてめえの所業に酔い過ぎて
いつ見ても同じ踊りばかりやってる
退屈過ぎるからヤジすら飛ばさない
下手なのにアクセルを踏みまくるドライバーと同じさ
俺はひしゃげたフロントを横目で見て通り過ぎるだけさ


朝と昼と夜の温度差で年寄りが死に
辛気臭い看板が街中の壁に貼り付けられる
いつかは俺もあの列に並んだ
次の次辺りは俺がみんなを並ばせる番かもしれない
「派手なスーツを着てポップコーンでも食べながら」って遺言には書いておこうか?


他人のことに執着して自分のことを見忘れるやつらばかりさ
見なよ、「王様は裸だ」と喚いてるやつら
あいつらは裸なだけじゃ飽き足らず
いろいろなオプションを突っ込んでいるってのに
汚え血が滲んでたってまるで気がついちゃいないんだ


めったに見ないテレビをつけりゃバラエティ・ショーは骨抜きになるまで検閲されて
ワイド・ショーではただのゴシップをトップ・シークレットみたいな顔して喋り続けてる
眠れなくなるわけさ、どこに回しても同じようなものしかやってない
そして街へ出て裸の王様の行列を眺めているわけさ
王様、喧嘩を売るならもう少しでかい声を出さなくちゃ駄目でございますよ


すげえ黒人とすげえ白人がバタバタと死んで
黄色い肌の俺は酸素欠乏症みたいな面で歩いてる
昼間は汗が吹き出すほどだった街路はいまじゃ
五分おきに小便器を探すほどに冷えている、便器に水を流すたびに思うんだ
便器洗浄水って名前の水もこの世には確かに存在してるってな


アーハー、政治家になんか期待したことはない
政治を叩いてるアーティストなんてみんな阿呆さ
俺は政治になんて期待したことはない
だから政治に失望したこともない
社会を作るのは個人さ、いまだってそうには違いない―俺の言ってる意味とは違うけど


誰もが一人で放り出されたことを忘れて
つるんで騒いで何とかしようと目論んでる
目的のよく判らない集団が溢れてる
オリジナルの共通言語に寄り添って
なにかをしでかした気になってるようなやつら


自動販売機のそばで缶コーヒーを飲みながら
クスリを買うために売りをやってる少女と少し話し込んだ
だらしない服の着方をして髪もぼさぼさだったけど
そんな自分をきっちり理解しているという点で
そこいらの連中よりはよっぽどまともだった


「死んでるみたいに生きるくらいなら楽しく死んでったほうがいい」
彼女はそう言ってくねくねと腰を振った
俺が感じ入って拍手をすると
初めはからかわれてるのかと訝ったようだったが
俺が短く称賛するとにっこりと笑った


捨ててすっきりすることが豊かな人生のコツなら
彼女のような人生は表彰されたって良い
飛ばし過ぎて死んじまう連中もまた同じさ、どこが違うと言うのかね
生まれてこのかたその手にしてきたものを後生大事に抱えて続けてこそじゃないか
遊びと無駄に囲まれながら少しずつ拾い上げるのさ、それが本当は人生ってもんなんだ


誰にともなく能書きを垂れながら歩いていると
東の空が貧血のような白さに染まり始める
忘れていたはずの朝がまた始まる
まともな連中がまともな人生のために蠢きだす
そいつらがまともな狂気を生み出し続けている


街外れまで行って使われなくなった古い道を歩こう
草にまみれたアスファルトの亀裂を
物語をなぞるように読みながら
歩けるところまで歩いてみるのも一興じゃないかね
俺みたいな人間にはそんなのがお似合いなのさ




自由詩 Side by side Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-05-21 01:06:38
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