プレーンソング
ねことら




晴れた日のガラス質が緊密で、冴え冴えと町にいる。無地のシャツ、明るいグリーンのパンツ。ぼくもきみも、ちっぽけな鉄の棒みたいな、腕力や暴力と無縁な体格をしている。ストーリー。少年プラス少女の。とてものどが渇いていた。お気に入りの猫のマークがついた保冷バッグにペットボトルを入れ、代わる代わるに唇を濡らした。この町は右折するばかりで、花屋の看板は見るたび色が変わってしまう。まぼろし。

ぼくらは春になれば冬を忘れた。春はつぶせば虫みたいだ、ゆかいと剣呑と、包帯を巻いても、巻かれた下でエッチなことをしても、いまは春だから、といえばゆるされた。絵や文を売って日銭を得て、1000円をかせいでは映画館が安い日に、ふたりで古いラインナップを何本かつづけて見るのがぜいたくだった。

ジッパーでせかいを封切るように。たのしい瞬間をそこかしこで記録し、共有し、削除して。遠ざかることと、忘れることは同義ではないから、ゆるやかに蛇行する細い路地を、いつもふたりで歩きつづけた。

最速の消費。呼吸を二人で分け合うこと。キスアンドクライムだなんて、スパイ映画じゃあるまいし。ね。どうしても間違えたいから、中で出したり、いろんな角度でしたり、気持ちいいことを、ずっと確認しあって。いた。

ぼくらは夏になれば春を忘れて。秋になれば夏を忘れて。電子メールが擦り切れるくらい、読んで、読んで、読んでから削除ボタンを、押した。それでおしまい。春の透明の終わり。削除した記憶は僕の中に残り、そうした記憶も削除される。

ぼくらは一瞬後の過去を歩いている。ストーリー。すべて春の日の透明のこと。やがて訪れる、古い映画のタイトルを考えながら。









自由詩 プレーンソング Copyright ねことら 2016-03-20 23:25:19
notebook Home 戻る  過去 未来