しずく 交錯
木立 悟





雪の下の
肌色の蝶
何もかも
左目の隅に置き忘れた朝


血の涙を流す鳥の背に
雪と鉄の音は降る
水のなかから空を見る径
光の傾きに消えかけた径


なかば沈んだ街の先
海に建つ牢獄の岩壁から
言葉が剥がれ落ちてゆく
ひたひたと白い 波の下の波


じっと空を見つめたまま
歌わぬ鳥の樹の下を
花の背の猫が過ぎてゆく
見え隠れする雨を追って


陽に溶け残る祈りは流れ
午後へ向かう坂を下る
囁くような寒さの棘が
硝子と硝子のはざまに震える


午後の終わりに午後は残り
夜はいつまでもはじまらず
花は曇の光を見つめ
はばたこうとする羽を見つめる


海へ落ちる瓦礫の音に
紅いしずくの鳥は振り向き
朝のかたち雨のかたち
歌のかたちの雪を見る


























自由詩 しずく 交錯 Copyright 木立 悟 2016-02-27 09:18:32
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