一日の始まり
たけし
僕の朝は米研ぎから始まる
米袋から米粒を五握り深鍋に
シャッ シャッ シャッと開けていく
冷蔵庫から前夜冷やしておいたペットボトルの冷水を取り出し
米粒で満たされた深鍋に注ぎ込む
手の平を開き冷水と底に沈んだ米粒を握り混ぜ
ゆっくりゆっくり掻き回していく
ヒヤッとした感覚に浸されているうち 意識が軽やかに覚醒して来るのが解る
一回目は次第に加速させながら十回程掻き回し 鍋の縁に片手を当てながら白濁した水を流す
全部流し終えると ピシッと米粒が固く引き締まったようで心地好い
底に濡れ光る米粒一つ一つの瑞瑞しさを暫しジッと眺める
二回目からは水道水だ
素早く斬るように掻き回す
〈群れてジャラジャラ 斬ってシュッシュッシュッ〉
言葉でアクセントを付け高速回転
水が白濁し指先が見えなくなったところでまた鍋から水を流し捨てる
八回程繰り返すと水もほぼ透明になり そこで米研ぎは終了させてしまう
〈完全に透明になると米の旨味が失われるのよ〉
若い頃同棲していた彼女にそうアドバイスされたのだー透明になるまでいつまでも米研ぎをしている僕を笑い見て
沈んだ米粒の表面をなるべく均等にし
表面から 人差し指の一番先の裏筋を少し越えるところまで 慎重に水を注ぐ
これで自分の好みの硬さになる
鍋に平蓋をし 真ん中の取っ手から左右対称に二つ大きめの石を置く
近所の川中から貰ってきた平底石だ
後はIHヒーターを最初は弱から 白い蒸気が噴き出してきたら1に上げ 30分程
顔を洗い髭を剃りコーヒーメーカーをセッティングしているうちに白米が炊き上がる
炊きたての御飯はそれだけで美味い
噛めば噛むほど甘味が出て来る
だから僕は最初の三口はそのまま頂く
それから胡麻塩を少し振り掛け塩分と甘味のコントラストを味わう
心の中で思わず手を合わせながら
ゆっくりと そう ゆっくりと食べる
自由詩
一日の始まり
Copyright
たけし
2016-01-26 15:32:52