微笑み姫
たけし

んふふっ

いきなり外付け階段の狭い踊り場に下から現れ ぶつかりそうになって 僕が「びっくりしたぁ」と思わず言ったら
見知らぬ君はずいぶんと余裕の微笑み

こんにちは!

へぇ 階段わざわざ利用しているこんな二十歳前後の可愛い娘がいるんだ と感心しながら思わず僕も「こんにちは」

このマンションに住むようになってから1年と少し 二度目の住民とのご挨拶

「エレベーター利用しないの?」

既に二三段昇りかけていた彼女にそう声をかけると

「だって朝からこんな青空が綺麗だと階段の方が気持ちいいじゃないですか」

「あぁなるほど」

彼女は相変わらず笑顔で軽く手を振りながら 上のフロアに消えていく


僕は 〈いいないいなあの余裕 いいないいなあの微笑み〉
思わず途中から歌にしながら玄関口まで出た
昨日の転倒ですっかり腫れ上がった右肘を 駅前の外科に診てもらわなければならない

♪いいないいな あの余裕
いいないいな あの微笑み

相変わらず小声で歌いながら 街道添いの遊歩道に渡り 改めて空を見上げた

見事な蒼穹がヒンヤリと広がっている

♪いいないいな あの微笑み
いいないいな あの深い青

今度あの子に階段で会ったらこの歌を聴いてもらおうか 
調子に乗ってそんなことを考えながら
僕は未だ凍結した雪が残っている道を ゆっくりと進んで行った


自由詩 微笑み姫 Copyright たけし 2016-01-25 14:32:30
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