cocoon
うみこ

裏山の防空壕の天井からは木の根がたくさん突き出ていた
入り口の高さは七十センチくらいで、湿っぽくて暗かった
近所のお爺さんから、近づいてはいけないと言われた
だけど、
小さかった僕らは友達三人でよく頭だけ突っ込んだ
真っ暗な防空壕に頭を入れると、とても緊張した
じっと耳を澄ましても
周りの音があまり聞こえなかった
頭を突っ込んでいるとき、僕らは無言だった
その中で、
互いに目を合わすこともなかった
ただ、並んで奥のほうをじっと見ていた
なにかあるわけじゃなかった
もちろん、
どこかへ通じているわけでもなかった

最近になって、河原を一人で歩いているとき、
そんな昔のことを思い出す
何を見たくて
何がしたくて
頭を突っ込んだのか
わからないけど、
そこから顔を出したとき、みんなとてもほっとしていた
互いの目を見て、いつも以上に笑って話しをした
そのときの友達の目は、美しく輝いていた

同じ夏に
僕らは蝶の羽化の自由研究もした
蝶の蛹が成虫になったときも、友達の目は同じ具合に輝いていた


いま僕がいるこの河原は、この季節、
枯れ草の色が目立って、黄土色をしている、
遠くで、ほったらかしの解体現場の鉄骨が赤茶けていて、
辺りが、何か恐ろしい気配に満ちている
それで僕は、
反対を向いて河原に腰掛けている
上着のファスナーをいっぱいまで上げて
首をすぼめて
膝を抱いて
向こうの陸橋を
微かな音を立てて
電車が過ぎるのを眺めている
風に吹かれて
カラカラ揺れて
足場のない、からっぽな空気に包まれたまま

僕は、
蛹の作った繭を見た友達が、この形、ちょっと笑っとるように見えん?
と言ったことを思い出している


自由詩 cocoon Copyright うみこ 2016-01-12 13:10:25
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