腕輪
あおい満月

あなたの大きく開いた口が、
ちいさな海を吸い込んでいく。
あなたの脳裏を走る列車が、
いくつもの駅を追い越していく。
駅には、
誰もいない人で、
あふれている。
あなたは、
誰もいない人を見渡す。
誰もいない人々は、
シンメトリーに
目を開いたり閉じたりしている。

*

何かの異質さに、
気づいたのであろう、
誰もいない人から
譲られた席に座ったあなたは、
お腹の痛みを堪えるように
長方形の手鏡に向かう。
手鏡に映る三日月を、
左右に滑り台にしてなぞる。
なぞられる三日月に皮が剥けて、
そこから赤い蟻たちが出てくる。
蟻たちは鏡のプールに群がり、
花の蜜を探しに一目散に散っていく。

**

あなたは、
意識をひとつにするたびに、
どんどん左に傾いていく。
それはまるで、
誰もいない人の、
潜在意識に吸い寄せられるように
架空の意識を選んでしまう。
そうしていつも非在という実在の腕輪を腕に絡ませている。



自由詩 腕輪 Copyright あおい満月 2015-12-17 22:17:08
notebook Home 戻る