八月の雪
レモン


祈るように消滅を願った夜、
コンクリートのぬくもりだけが
真実だった。

泣くことは
禁じられていたから
渇いた眸で星を探しても
乱視の視界では
一等星すら心細くて
叫びたくても聲にはならず
伸ばした手が空を切っても麻痺することで誤魔化した。

眠ってしまったのかもしれない。
ひとつ。ふたつ。
だんだん速度を増して昇ってゆくのは
ひかりではなく
蒲公英の綿毛みたいに淡白い小さな気泡
いちめん埋め尽くして
いちめん埋め尽くして
ああ、
還ってゆくんだね
枯れた花や死んだ蜻蛉
産まれた想いたち
音もなく静かに孵ってゆくんだね。

肩に停まった軽やかな存在
‘ありがとう’と
揺れた気がした。
きみは七日前に助けた蝉かい?
七日間、
充分生きたかい?

微笑んだのだろうか
涙だったのだろうか
雪降る響き
微かに鳴って
暖かく融けていった。



ありがとう、いのち
ありがとう、想い

さようなら、いのち
こんにちは、想い


また逢う日まで。


自由詩 八月の雪 Copyright レモン 2015-11-20 20:33:19
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