なまもの
春日線香
もうとうに亡びてしまった実家から
突然、荷物が届く
なまもの扱いのそれを開けてみると
ビニール袋に小分けされたなにかの刺身が
ぎっしりと詰まっており
特にこれといった説明書きも見当たらない
仕方なく取り出していくと
どうやらそれは一人の人間を薄切りにして
箱に詰めて送ってきたように思える
あれこれためつすがめつして
ようやく頭から足の先まで
身と身をつなげていけばそれは
たしかに見覚えのある祖父の姿で
わたしのことが心配で会いに来たのだろうか
おひさしぶりです
また満州のことを話してください
…………
満州では学校の帰りに
子供たちだけで山に行って
手のひらほどもある水晶を沢山拾ったよ
…………
窓の外で嵐が騒がしい真夜中
そっと布団を抜け出て
寝ている祖父を起こさないよう
こっそりと薄切りにし
少し醤油をかけていただいた
涙がこぼれた