少年たちの受験戦争記
竜野欠伸

かつてチョースケと云う
ニックネームの先生がいた
いかりや長介にそっくりで
思春期を過ごした
高校で体育を教えていた

受験とは脳内戦争ではなく
知識でも何でも身体全部で
覚えるしかないが
チョースケの教えだ
結局のところ教頭を目指すための
プロパガンダと云われ
もちろん信者などは多くはない

前方へと規則正しく
隊列を組んで前進する
体育の不思議な彼の授業では
行進を教えることが
BESTで楽しいとチョースケは言う

すでにTVでは見られない
コントのような授業に
受験勉強の気を紛らわしながら
同じクラスでは女生徒たちと
一緒に、全員集合!と
チョースケが云うのを
楽しみにしながら
    
去年の成人式には
ドリフターズは来なかったことを
冗談とともに
すでにライバルから
友人の報せで知ったばかり

まだ大人にならないうちの
少年の狙撃手たちは
ピストルに銃弾を込めるように
シャープペンシルに替え針を詰め替える
何より担任のアドバイスを
ニュースにしながら
記号としての知識を
生き残りのための情報として
テストの解答欄に
限られた時間の内に
次々と打ち込んでいく

まるで教科書を
読むときみたいな
沈黙の森のなかで
勉強のためだけに
珈琲と非常食ばかりを
口にして過ごしていた
静かに睡眠時間を削る闘い

誰かが、全員集合!と話している
防衛大学校の早期の試験があり
模試代わりになるし
受験もスポーツであり
防大受験は、
体育系最難関の挑戦と
学徒出陣をチョースケは勧めていた

まるで受験は百戦錬磨が集まる
人生ゲームの序章であり
最も知的なスポーツであると
チョースケが云っている
国公立大学合格者数の多かれ少なかれを
担任同士で闘っていると云う
自分と闘う
孤独だけを隠して
点数だけを競い合う
脳内戦争で
名ばかりの知識が
乱れ飛んでいる
社会に出て何の役に立つのか
クイズに答えを
出したいだけだとしたら
まず運命の人と出会う恋愛には
役には余り立たないだろうに
ある種の知識は人生の冷凍庫で
凍りついたままだろう

短い秋が来て失恋をしたばかり
間もなく決戦の冬がやってくる
自分の狂気も現実も
もろともになって
ボーダーラインも近接していて
幻が聴こえ始める
全員集合!、とチョースケの声が
確かに自らには届いたはずで
いよいよ未知の受験勉強へと
突入している

大学近くの駅まで
永い街路樹がある道
最期に残る
紅葉が落ちる日には
決意の祈りを捧げながら
人生そのものには意味がないとか
結婚は人生の墓場であるとか
大学の先生に
無い物ねだりの万能な知識を
求めるなら
まだ高校卒業が
学歴にはなるだろう
学歴差別をすることのコストは
まったく天文学的な金額だろうに
チョースケは身体を
張ってアドバイスをするけれども
ただそれだけだ

誰しもの夢を実現するためには
苦労をして信用を積み上げてみれば
誰しもの人生によって
きっと信頼が産まれるだろう


※敬称略


自由詩 少年たちの受験戦争記 Copyright 竜野欠伸 2015-09-26 20:17:26
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