幻視、桜
嘉野千尋
風が吹いて、あたし
かんたんに飛ばされてしまう
未完成な結晶のすがた、まだ
花にはなれない
舞い上がって、遠いところへ
行ってしまうなら、
今がいいと、思ったのに
伝えて、うまく笑えない
言葉が見つからないんだって
見つめる代わりに、
ささやいておいて、耳もとに
力をうしなう幻想のすべて
芽吹くまえの、桜並木、
薄紅にはまだ遠い、連なりを
一瞬の、幻視
桜の雨のなかに
面影をさがして、あのひとの
横顔でいい
後ろすがたでいいから、
あぁ、
風が吹いて、あたし
飛ばされてしまう、また
花になれないまま