きみがいた、きみといた。
あ。

きみを覆うのは、世界中のあらゆる瑞々しさ。


この土手をもう少し行くと踏切がある
車どころか人だってあまり通らない
斜め前には所々が赤茶色に錆びた鉄橋
電車が通るたびに、じ、じ、じと振動する
きみの好きな場所だ
少し離れた草むらに腰を下ろして
カンカンと音が鳴り始めるのを待っている
横顔に表情はあまり濃くない
逆光にほほの産毛が細く光り
汗ばんだ癖毛はゆるく波打っているやがて電車が通過すると
艶やかに見据えた黒目が
動きに合わせてちょろちょろと震えるように追いかける


幾台分もの会社員や学生を見送り、立ち上がる
土で汚れたお尻を払ってやると
珍しく手のひらを差し出してきた
きゅっと握れば暖かな湿り気が私の皮膚に伝わり
そのかわいらしい指の形に
まるで花のようだと一瞬思ったのだけど
違って、
花を咲かせる土であり光であり栄養なのではないかと
そんな風に思い直して、
きみは私の大層な思考には気付かず
もう片方の手で器用にねこじゃらしを抜いて
ゆうらゆらともてあそびながら
歩いてた、夕焼けしあわせに


玄関先で脱ぎ散らかしたままの靴下には
名前も知らない夏草が
こっそり私を覗いてた、まるできみだった


自由詩 きみがいた、きみといた。 Copyright あ。 2015-06-02 15:50:05
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