すいっち
そらの珊瑚
一瞬で
りんごもにんじんも正論も砕かれ攪拌されてどろどろのジュースになるみたいな
彼女だけの鋭いミキサーのすいっちは日常のいたるところで押されるのだった
あるいは一瞬で
女子なのにおおかみおとこに変身するみたいな
凶暴なすいっちも月夜の晩であろうとなかろうと押されるのだった
そのたびに母は彼女のまずい液体を飲んだり飲まなかったり
こっそり犬に与えたり
おおかみと対等にやり合っても
勝ち負けのないケンカはやはり飲み込めないものだった
わたしの中から産まれたのに彼女の身のうちに宿るものの理解不能なすいっち
わたしはそんなすいっちなど持っていたことなどないと思っていたら
実家で偶然見つけた中学生の頃わたしが書いていた日記帳は
母への不満悪口だらけだったのに本当に心底驚いたのだった
忘れてしまうものなのだ、洗いざらい笑ってしまうほど。
わたしもかつて得体の知れないすいっちを持っていて
表向きはいい子でいようとしたぶん
娘のすいっちよりわかりづらくて巧妙で嘘だらけ
いい子でなんかいなくてもいいよ
そう思って眺める中学生の娘の寝顔の中に
世界で一番かわいい赤ちゃんがいることを描き出すことのできる
わたしだけの
やわらかな すいっち