日々の味わい
服部 剛

六本木の美術館に、足を運び
蕪村の水墨画の風景で
「東屋に坐るひと」が聴く
滝の音に――耳を澄ます頃

ポケットに入れた携帯電話がぶるっ…と震え
展示スペースの外に出て
「もしもし」と、僕は言い
「『風』の原稿のことだけど…」
と、恩師は語る。

小さい画面には
妻からの着信もあり、折り返して
「もしもし」と、僕は言い
「臨時収入が入ったわよ!」
と、興奮気味に妻は報告する。

(これでしばしは…やっていける)

ほっと胸を撫で下ろしつつ
美術館を出て、珈琲店に入る。

向かいの席で、結婚前の男女が
互いの瞳をみつめ語らい
隣の席は、大学生等が
サークルの話で盛り上がり
店内は、ご機嫌なヴァイオリンが
BGMをうたってる。

――今日という日は、二度と無い…夢

ふいに、そんな予感が芽生え
ゆっくりカップを
口に運び
焙煎珈琲を、僕は啜った。  






自由詩 日々の味わい Copyright 服部 剛 2015-03-31 23:38:47
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