相馬野馬追〜その瞳をみていたら〜より
黒木アン

其処にいるなら
一張羅を着て
蹄が巻き上げる
粉塵の中で
荒武者駿馬の
躍り上げるさまに
食い入る横顔
相馬野馬追にと


不動の山から響く
幼少のたいくつが
太鼓の拍子
心この胸つきあげて
何気のない日々
鮮やか溢れ

その甲冑を揺らす
合戦の山場には
生に
滅ぼすものない
弔い

受継の伝統
人と馬
忘れ難きを
共にして
四足の鞍に
想いあらたに
復興へと
戦は死を
しかし
最大の尊
……命

助けたい人もいただろうに
涙をのんで討ちとった
戦国武将がかかげた旗に

流れた時は
剣も矢もすて
鎧も脱ぎすてたのに


難をのちに残すなと
未来へのつとめを
語りだすのでしょうか


武士魂
意気たるを壮とする
才たけなくとも
世のありように
やわらかく
人のありように
いかされて
道柴の人に
踏まれても
露の情けで
よみがえれと
人生四季の
眺め方を教え
子のないわたしの
吉報に
宝にしなさい
もったいない
掌手の珠だと
馬になり
孫を背にのせ
笑った父さん


もしもう一度
会えるのなら
相馬野馬追に
いきませんか

あなたは馬が
好きでしたから

いつか哀歓を
のみこめましたら
父娘の馬歌を
もう一度
落ち葉を焚いて
童心になり
その明るさの中で
ほのぼのと

今はまだ
別れ悲しく
涙がでます
あまたを越えて
この別れほど
悲しいものは
ないのです

わたしは
いい娘でしたか
甲冑がこわくて
近づけなかった
蔵の思い出
今は愛しい
今はいつも風に


自由詩 相馬野馬追〜その瞳をみていたら〜より Copyright 黒木アン 2015-03-16 00:09:19
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