祖父の水筒
とよよん

二杯目の生卵入りビタミン飲料を作ろうとしていた祖父は
祖母に見つかり
一日一杯とお医者さんに言われているでしょう とたしなめられていた

平和とは何かしら

終戦直後に生まれた母は
街には死人がごろごろ転がっていたらしいよ
二度とこんな酷いことは御免だと思ったらしいよ
という

平和とは何かしら

大震災一年後に訪れた東北
震災直後の炊き出しで人々を元気付けた シェフの料理を食べた
本当の被災地は知らない私

平和とは

ぬるめの 湯かげんです
どっぷり 浸かっている
けっして 湯あたりしないでしょう
ぬるいので湯気も出ず

透明だから
存在感もなくて
日々感謝されるようなことも少ないようで

床の間の横の飾り棚に 不似合いな
光を失くしたアルミの水筒
細かい傷 あちこち陥没していた
それを手に取り祖父のする
水筒の濁り水だけで戻ってきた話は
幾度となく繰り返された

お前にやると何度か差し出されたけれど いつも受け取りかねて
そっと棚に戻していた水筒

話を何度も聞くことで
心の平和を守ったと 信じていたい

平和とは
浸かるものではなく 護るもの

その旅路の果てで 祖父に
良かったんじゃないか と言われたいから


(2015/2/26にツイッター投稿した詩です。黒木アンさんと行った連詩の一部。)


自由詩 祖父の水筒 Copyright とよよん 2015-02-26 07:12:54
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