無言歌
服部 剛

夜――母が机にそっと置いた麦酒を呑み
頬を赤らめた兄はじっ…と目を閉じ

向かいの席の母もまた、おもを上げ
兄を見つつも…掌で涙を隠し

傍らに坐る、幼い私は泣くまじと
兄を歌で送れども
くちびるの端の震え、ままならず

三月みつきの日々の過ぎた後――正午の戸は開き
渡された、たった一枚の紙

玄関の母の背中は、今もなお
年老いた私の胸に…灼きついたまま  







自由詩 無言歌 Copyright 服部 剛 2015-02-22 21:39:39縦
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