朦朧詩
北井戸 あや子


浴室に伏せて、日常という連続を流す
選べない明日になれないもの
排水溝手探りに口へ
盲目、目を剥いたら蟻が群がる黒い塊
窓の外には誰に泣くわけでなく呻く風
取り繕いか浴槽のシミに似た愛
面影を洗い肌合わせ、慰め合いに骨なぞる
はだけた夢はどこへ?
冷たい浴室舐めては探す、何処?どこ?
廃水遊び

静脈を流れる曼珠沙華と唾液、麻酔、ポタリ、また昏睡
怖がりな無は黒の中、出ておいで
無垢にワラワラ湧く虫と、おなじ問い掛けこれで何度目?
もう寝ましょうか、さあ手をとって、良い子に殺して
太陽が撃ち落とされるたびに
拡張される瞳孔は艶めかしい虚空犯してはまた拡がる
悪夢はどちら?黒いまなこがゆらゆら振れて
見えるものはどれも、もう見飽きた色ばかりね
熟れた柘榴、かわいい首

ノート一面に血を
ポタポタ落としながら
希望だとかを柔らかく書き殴る
かじかんだ手をかざす暖炉の様な
無償の優しい言葉で埋めて、埋める
しかし私は身体にぽっかりと空いた穴の痛みさえ感じられず
今は肺を泳がせるサカナに似た絶望だけが
ただ一つの安息なのです

見えては隠れてしまう、かなしさは人差し指だけ残して
もう溶けてしまった
豆電球のオレンジに伸びた爪の白を透かせ
誰に言うわけでも無いおやすみは
ぽつり滴る雨滴
寝返りうって待ちぼうけ
さびしがりな言葉達
おとなしく胃液に沈めたまま


自由詩 朦朧詩 Copyright 北井戸 あや子 2015-01-19 01:46:34
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