旅路の一服
鵜戸口利明

煙草を呑んで
斗酒なお辞せず
早世した父の
生きざまを索めながら
父と同じ航跡を
たどっている自分に
ばくぜんとした
不安がそそる

眠れる
マグマのごとき狂気の
噴火をおさえるために

煙草
を呑んでいるのに


煙草
に呑まれているぼくは
可愛らしくって
微笑ましくって
苦くわらえる

ウィスキーの甘さは
苦かった
ウィスキー呑んでいるうちに
このまま死にたくなった
世界は小さかった
世間は小さかった
みえざる何者かの奴隷になるくらいなら
酒呑んで
タバコを吸い
そこら辺の同胞たちと
ドンチャン騒ぎしながら
破滅に向かっていきたかった

「お前、もうボトルそんなに呑んだのか」
兄さんが言った
口直しにワインを呑むと
ぼくの中で
何かが変わった気がした

ロンピーに火を点けると
世界が明るかった
何かが散ったのだ
「つまらん」
兄さんが言った
「呑みに行こうか」
ぼくは言った、
「姉さんひっかけようよ」
「よし」兄さんはいう
「吸い終わるまで待って」
ぼくは言った


自由詩 旅路の一服 Copyright 鵜戸口利明 2015-01-15 05:32:58
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