この手裏剣を使いたまえ
ブルース瀬戸内

この手裏剣を使いたまえ
最期が近い祖父が言った。


人生は楽しみも多いけど
悲しみだって多いのだよ。
たくさん笑う日もあれば
涙が止まらない日もある。

悲しい時はこの手裏剣で
闇をかっこよく裂くのだ。
溢れる涙はこの手裏剣で
遠くに飛ばせばいいのだ。

疲れたらキャラメルだよ。
キャラメルを食べるんだ。
わしはそんなふうにして
世界と互角に渡り合った。

お前にだって絶対できる。
なぜだか教えてあげよう。
お前はわしの孫だからだ。
お前はもうとっても強い。
でもわしの方が強いけど。

この手裏剣を使えたまえ
この手裏剣を投げたまえ
この手裏剣で強くなれよ
この手裏剣をお前にやる
この手裏剣をお前にやる
この手裏剣をよろしくな


その手裏剣は紙製だった。
祖父が新聞チラシを折り
手裏剣に仕立てたものだ。
手裏剣はたくさんあった。
僕に強くなってほしくて
たくさん作ったのだろう。
僕がすぐ逃げないように。
いつでも勝負するように。

僕が手裏剣を手に取って
目つきをキリリとすると
まだわしの方が強いがな
祖父が笑ってから眠った。


自由詩 この手裏剣を使いたまえ Copyright ブルース瀬戸内 2014-12-11 20:41:41
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