かりそめ
そらの珊瑚

ドラッグストアの棚に並んだ
石鹸の類い
これでもない
あれでもない
おそらくどこにもないのだろう

探している香りは
高電圧のくしゃみのように
蒸発してしまって
世界のどこにも、ない

サボン遊戯

祖母はそれをたっぷりと泡立てて
やせぽちのわたしをくまなく洗う
  
    
  いい匂い、
  すてきな匂い、
  おひめさまの匂いだね。

そうだよ
ほうら
べっぴんさんの出来上がりだと
ほめそやされて それは
わたしの毛細血管の中を駆け巡る

失われた
特別製の香りを
ときおり探してみては
 ばあば、と
 無邪気に呼んでいたけれど
 浴室の祖母は
 味噌や醤油の匂いを洗い流し
 べつのものをまとった
 つややかな女であったのかも
 しれない

代用品として
選んだこの香りも
そう悪くはないと
四百二十円を払った



自由詩 かりそめ Copyright そらの珊瑚 2014-10-18 13:25:33
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