机上のワインー珈琲店・エルにてー  
服部 剛

遠藤文学講座の後に、皆で語らう
この店で僕は、受洗を決意した。
この店で僕は、息子の障がいに泣き崩れた。

四ツ谷の地下の珈琲店・エルは
奇遇にも
遠藤先生の命日である、今日
四十五年の歴史に、幕を下ろす。

人それぞれの想い出達を
そっと宝箱に仕舞うように

生涯、僕は忘れない。
この店で分け合った数々の痛み  

幼い頃の原爆で
母を亡くした娘が大人になるまでの
哀しい物語

若い娘を病で亡くした、暗闇を
打ち明けた母親の頬に伝う
ひとすじの涙  

生涯、僕は忘れない。
在りし日の遠藤先生が
体の無い姿で、ふらり
この店を訪れるように
待ち侘びて…

今日も机に置いた
献杯のワイングラスを  







自由詩 机上のワインー珈琲店・エルにてー   Copyright 服部 剛 2014-10-05 21:26:53
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