燃える男
服部 剛

白球は時に、燃えている。

ふいに巡ってきた
体調不良選手の、代役出場。

3回表、2アウトランナー2塁のピンチ。
1年中ぱっとしなかった、彼の
守るレフトの後方に
打者の打った白球が
虹を描いて、飛んでくる
斜め後ろに走りつつ、
だんだん大きくなる球をめがけて、飛ぶ!
さし出す…グラブ!

何万人もの拍手が一斉に響く
東京ドームの外野席で
僕も立ちあがり
100メートル先で脈うつ、彼に
届くよう拍手して、叫ぶ

「やのけんじ〜…!」

3回表、ベイスターズの攻撃を終えて
マウンドからベンチへ戻る、後輩投手は
くるり
ふり返り、一礼する。
ぱん
と手を重ねて彼はベンチの奥へ、入っていった

ジャイアンツカラーのオレンジの血液が流れる
僕の両目に白球は炎と燃えて…
フェンス越しに遠のいていった、彼の
ユニフォームに透けて
白球はめんらめら…燃えていた。  







自由詩 燃える男 Copyright 服部 剛 2014-09-17 20:39:46
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