やさしい世界
opus

手首が落ちていた
拾って見聞
多分女性のもので
若い
爪は綺麗なピンク色に塗られていて
指はすらっとしている
中指が人差し指より
少し長くて
生命線がはっきり見える

匂いを書いでみると
少し腐敗臭
だけど状態は悪くない
とりあえずビニール袋に入れて
持ち帰ることにした

周囲は
見渡す限り瓦礫で満たされていて
遠くから野犬がこちらを見張っている
要望はこの手か
それとも僕か
まぁ、襲って来たら
逆に今日の晩飯になるのだけれど

空の色が赤く染まる
目の前に太陽が大きく丸まると輝いている
この瓦礫の山の中で
この夕陽に満たされる時間帯
この時が1日の中で
最も至福な時間帯
手を大きく広げ
めいいっぱいに
光を浴びる
体が陽に溶けて行く
遠くから烏の鳴き声が聞こえる
森のさざめきが聞こえる
海の咆哮が聞こえる

瞬間、
真紅に染まる
体が倒れ
額から血が流れる
誰かに撃たれたみたいだ

まるで、水たまりのように
どんどん血が溜まる
手を上げ
ぱちゃぱちゃと
その水面を叩く
掌が真っ赤に染まる
その色があまりにも
生々しくて綺麗なので
何だか笑みが零れてしまう




自由詩 やさしい世界 Copyright opus 2014-08-10 11:40:18
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