板挟み
葉leaf




たった一つの顔しか持たないので
たった一つの表情しかとることができません
たった一人の人としかしっかり話すことができません
たった一つの正義しかまなざすことができません
沢山の見えないしわでいっぱいの顔ですが
それでもたった一つしかないのです
組織の中で僕らは互いに油を塗り合っている
より円滑により迅速にすべてが滞らないように
そんな油でするする滑っているうちに
誰に向かっても笑顔で応対しているうちに
笑顔は一つでは足りなくなってくる
無数の方角を向いてぶつかり合っている
人々の矢印を受け入れているうちに
天秤を釣り合わせることができなくなってくる
僕の顔がたった一つだったのは顔と心がくっついていたからだ
心を変えることができないので顔も変えることができなかった
だがここまで沢山の顔が要求されてくると
僕は顔を心から引きはがす必要が出てきた
人々のぶつかり合う矢印に対応できるように
もはや心のくびきを離れた顔が
臨機応変に矛盾しながら引き裂かれながら対応していく
僕はもはや自分がどんな顔をしているか分からない
だが表情すらわからなくなってしまった今の僕の顔に
僕の責任はすべて負わされているのである
僕は顔と心のどちらに自分の本当の姿があるのか分からなくなる
もはや得体の知れなくなってしまった顔が独り歩きし
俺の方が本物だと主張し始めて
僕は自分の心のほんとうが分からなくなってしまう


自由詩 板挟み Copyright 葉leaf 2014-08-02 07:51:42
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