人へ
葉leaf

〈明方の孤独〉
始まるものと終るものが互いに巻き込まれて静かに壊れていった。
人はまだこの世で互いの表情を交換し合わない。
太陽は自らの作る朝に呼ばれるのを待ち続けている。
僕の手近には何もない。
距離が静けさで拡張されてしまった。
僕の身近には誰も居ない。
言葉が空気を泳ぐ前に滅びてしまった

〈全てが虚しい僕へ〉
死ぬほど潔癖な独房へようこそ。
もう何も見なくていいし何も聴かなくていい。
どんなに美しいものでも今の僕には醜いから。
どんな発見も今の僕には意味がないから。
どんな優しさも今の僕には敵意でしかないから。
独房で少し独白するんだ。
全ての聖なるものへ罵声を浴びせかけるんだ

〈板挟み〉
僕はどちらかに傾くことしかできない粗製の天秤。
両方の皿に必死な二人があらんばかりの重りを載せてくる。
そして必ず命令するのは「釣り合わせろ!」
そもそも粗製の天秤にいい加減に重りを載せているのにどうやって釣り合うことができるのか。
僕は予備の重りを使いネジを調整し偽りの均衡を

〈八方美人〉
組織は大きな車輪を回し続ける。
その車輪を滞りなく回すため僕らは互いに摩擦しない。
油の中を漂うかのようにツルツルな僕ら。
だから全ての人に遍く好意を寄せ、
全ての人から遍く注文が降ってくる。
このてんでバラバラな注文に全ての人の機嫌を崩さぬよう、
矛盾を丸めて矛盾でなく見せる。


自由詩 人へ Copyright 葉leaf 2014-08-02 03:21:11
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