荒野にて
山部 佳

「ウイグル帽は止めとけ」
砂漠の砂と陽に焼けた案内人は言った
空港の前の道路に立っていた兵士が
死んだ伯父の口調を思い出させる


「殺せ」
そう言われたんや
粗末ななりして、笊持った年寄りなんぞ
敵のスパイなんかやあらへん
わかっとったんや、みんな

わしら、赤紙一枚で来ただけやよって
難しいことはなんもわからん
命令に従わんかったら
おつむが真っ白けになるまで
殴られるだけや

戦争ゆうのはな
殺されるだけやあらへん
人殺しを強要されるんや
それも、戦闘やなしにな
あいつらにかかったら
怪しげな連中は、みな犯罪人や
鉄砲もなんも持ってへん
そんな人間を殺させられるんや

そんなときはな
はらわた飛び出して
目え剥いて死んだ友達を
思い浮かべるんや
こいつらのせいや、こいつらのせいなんや
無理くそ、そう思い込むんや
そうでもせんかったら
引き金引かれへんわ

ほんま、えげつない話やろ
実際、ドンパチやってるときはましやねん
そうやないときが、えげつないねん
戦争ゆうのはな…


道路の両側に広がる
果てしのない荒地の彼方に
赤黒い、巨大な満月が浮かんでいる
案内人は無口で、しきりに煙草をふかしている


自由詩 荒野にて Copyright 山部 佳 2014-07-12 00:53:10
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