さようなら、戦士
ちと

戦士は傷ついていた

胸に深い傷を負っていた

傷口から溢れる透明の血には

誰ひとり気づかなかった

時が経ち

傷は癒えたかのようだった

時々傷跡の奥深くがじりじりと痛むことは

誰ひとり知らなかった

ある時

戦士は傷跡を撫でた

傷つけ傷つけられた日々を思い

真っ赤な涙を流した

まるで焼け焦げるような痛みも記憶も

すべて絞り出すかのように

戦士はとうとう決意した

この苦しみから逃れることを決意した

この罪から許されることを望んだ

戦士は世界一澄んだ湖を訪れた

醜い傷跡からにじむ透明な血も

陰惨な記憶に流した真っ赤な涙も

全てを溶かすような透明の湖を訪れた

戦士はひとり

世界にさようならを告げて

水底へ沈んでいった

透明の血も

真っ赤な涙も

ひとりの戦士がいたことも

誰も知る者はない

さようなら、戦士


自由詩 さようなら、戦士 Copyright ちと 2014-07-05 16:21:15
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