避難訓練
馬野ミキ

小学校の避難訓練があった
地震を想定し保護者が迎えに行くというものだ
俺はすこしだけ飲んでいたが口臭がしないように歯磨きをつとめた
それからスーツに着替えた
ネクタイをしようとしてやめた やり過ぎだ
何時に出ればちょうどよく気まずい時間がなく他の保護者や先生と過ごせるか時間を計った
俺は紅茶を飲んだりハイボールをすこし飲んだりトイレに行ったりして時間を合わせた
何時に何々をします、ということが苦手だ
魂がそこに引っ張られ時空が歪み縛られるようで・・

革靴は暑くアスファルトの何cmか上で蒸せた
俺は父親だ 
そう言い聞かせながら、不機嫌な顔をして通学路を歩いた
決まりで徒歩で迎えに行くことになっている
不機嫌な顔をしていれば本心は悟られない
俺の本心とは何だろう? 
すべての演技・・

ほどなく住宅街を歩いて校庭につくと数十人の保護者たちが防災ずきんをかむって先生の指示に従っている子どもたちを遠巻きに見守っている
俺も保護者と見られているだろうか
俺もこの茶番に溶け込めているだろうか

生徒たちは校庭に並んでいた
チューリップみたいだった
校長先生が拡声器で何かお話をしていた
保護者たちは焦った心臓の小鳥のように後ろであほのようにざわついていたので校長先生の言葉が聞こえなかった
俺は校長先生の話を聞きたかった
俺は、「まず保護者を黙らせろ!」と叫ぶ自分のイメージがうかんだ
そしてなにもしないで突っ立っていた
太陽はさんさんと輝いてた
太陽は特に何もしていないようだった
俺もなにもしないことは特技になっていた
そう、バランスを保っていられる間は。


自由詩 避難訓練 Copyright 馬野ミキ 2014-07-01 18:42:26
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