かりん島のここここ鳥
クローバー

夕凪の前に漂う溶けた粘土の身体
ただいま、という言葉を言わなくてよい
そんな自由に
かりん島のここここ鳥という物語を思い出す
殻を破り、あと少しで孵ることができる、というタイミングで
托卵性の他の鳥に巣から追い出された、哀れな鳥
おかえり、も、ただいま、も、いってきます、も知らず
ただ、ここここ、と鳴くようになった
親鳥も、ましてや自分を追い出した大きな雛も
ここここ鳥のことを知らない
知らないから、誰もここここ鳥を見ない
自分はここにいるよ、ここだよ、と言うだけで
誰も、お前はそこにいたんだね、と言ってくれない
見つけられない鳥のお話
ここここ、と言いながら無様に羽ばたく
誰も気に留めない透明な自分を見えるようにするための冒険
その始まりの部分に
素晴らしい自由を感じていたのは
ぬくぬくとした巣の中で殻をかぶった雛のなりそこないでした
と、アナウンスするこいつも
ここここ、と鳴く鳥なのだろうか。


自由詩 かりん島のここここ鳥 Copyright クローバー 2014-06-23 00:03:32
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