それで?
yamadahifumi

多分、それはもう語られたのだろうと僕は思う。だから、あの時、君は沈黙したのだと。

君は『世界』を知っていた。それ故、君は沈黙した。だけど

それ故に、人は君を馬鹿にした。こいつは

『何も知らないんだ』って。

君はいつも、一人の人を愛する事に専念していた。だけど

その一人は君の目にはどうしても映らなかった いつまでたっても君の目に映ったのは

湖水に映った影だけ

だから、君は水晶のように透明な瞳で

ひとつかみずつ、世界を壊していった

君の愛に値するものは、この世界にはひとかけらもなかった だから君は

ひとかけらずつひとかけらずつ

世界を壊していった

だから、君は今、沈黙の女神

そう、君はこの時の塔の中で

まるで永遠であるかのように佇立している

世界は静かに去った よって、

君というオブジェだけが残った

だから、僕はこの永遠の博物館で君に語りかける

「もう、君は黙らなくていいんだ。もう語ってもいいんだよ」

でも、その時、君の瞳は動かない 君の唇は開かない

いつの間にか、君は死んでしまったんだ そう、いつの日にか君の心は

とうに死んでしまっていたんだ

……だから、君は

今、ふいにお気に入りのバッグを持って青信号の交差点を渡る

そして、その時、君はとても悲しい目をしている

だから、君は今

『全然』、存在していない

だけど、それによりーーー

この『世界』は存在している

じゃあ、僕はあえて聞こう




『それで?』


自由詩 それで? Copyright yamadahifumi 2014-06-16 08:05:15
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