哲学者、芸術家の世界を変える方法について
yamadahifumi




 哲学者や芸術家の方面へと向かう人はどちらかというと暗い人、無口な人、ネガティブな感じの人が多いのではないかと思う。これは一般的にそう思われている事であり、僕もこの事については一般的にそうだと思っている。もちろん例外はたくさんあるだろうが、これはあくまでも一般的な話だ。


 芸術家や哲学者というのが、何故そういう領域を目指すかというと、単に、『大学で哲学を教えたい』とか、『芸術家になってちやほやされたい』みたいな事とは違う感情があると思う。そしてそれは、単に哲学が好きとか、芸術が好きとか、そういうものとも少し違う感情であろう。こういうのは、どういう事だろうか。少しだけ説明してみよう。


 僕達は生きていて、大人になるにつれて、この社会に従う事を要請される。それがどのような規範であろうと、僕達はとりあえずそれに従わなければならない。ホワイト企業とかブラック企業とか人は今、色々言っているが、結局、上の言う事に従わなくてはならないという事では同じ事だ。そしてこの時、経営者を目指す人は、従うという事を徹底的に遂行しつつも、むしろ、他人を従わせる方向へと向かっていく。別に、従わせる事は悪い事でもなんでもない。おそらく、優れた企業人は、他人を従属させる事、配下に収める事、それがどういう事であるかについてよく知っているだろう。だが、この優れた企業人は同時に、この他人というのが一人の人間で尊厳が在るという事も同時に知っていて、この人間の尊厳を尊重しつつ、自分の意思決定に従わせる、という難しい技をしなければならない。世の社長の大半にそれができているとは思わないが。


 ところで、芸術家や哲学者志望の人間はそれとは真っ向反対の方向へと走って行く。彼は、自分が社会のトップに立って、人々を変革させようとは望まない。むしろ、彼は単に社会から押しつぶされる。彼は元々、自由かつ気ままに生きたいのだが、社会、そして集団化した他人はそれを許さない。だが、この人間は他人を屈服させたくもない。なぜなら、もうこの人間は他人に屈服させられた経験が苦い味として残っているからである。だから、彼は絶望するしかない。そして、その圧縮された絶望は、一つのペン、そして一つのノートへと向かう。そして、彼はこのノートに自身の絶望を託す。…あらゆる芸術、あらゆる哲学というのは、その人間の絶望を希望に転化させる為の、不思議な技だと言っても過言ではない。

 
 希望だって?。希望?。そんなものがどこにある?。…だが、これら哲学者や芸術家にとって、自身の絶望を記すという行為は、それ自体希望そのものである。それは中身としては絶望だが、現象として見ると希望である。そしてその事は特に奇妙な事ではない。自分が病んでいるとしても、その自身の『病気』を表現にしてしまえば、その人間は一時的にその病に勝ったといえる。一時的といえども、その人間はその病に勝利した。これは人間的な方法論であると共に、世界に対しても有効な方法論である。…なぜなら、そのように記された彼の絶望はやがて、人々の共感を呼ぶからである。それが何故かというと、世の中の普通の人々というのも、この芸術家、哲学者と同じように世界から押しつぶされている存在だからである。だがこの時、この普通の人は、自身の絶望をノートに託す技を持たない。従って、これらの人はなんともいえないもやもやとした、漠然たる不安や不満にさいなまれる事となる。しかし、この普通の人が、この哲学者、芸術家のノートを手に取り、それを見るやいなや、正にそこに自分達が漠然と感じていた不安、不満が表現されている事を知る。こうして人々は、この哲学者や芸術家を指示する。いや、この人達はあくまでも、これらの人が作った『ノート』を指示する。そうしてこのノートは世界中にばら撒かれる事になる。こうして、世界はそれまでよりもほんの少しだけ変化する。しかし元々、その変化というのは、この哲学者、芸術家が、一人の人間としてあまりに卑小に、自分自身の絶望を感じたからであった。こうして、世界というマクロなものはまず、この一人の人間の絶望というミクロなものから変化していくという事になる。


 従って、世界を変革する方法というのは、色々あるということになる。常に希望を持ち、楽天的に、そした絶えず努力を怠らずに、経営者や優れた政治家を目指すのも良いし、徹底的に絶望する事によって、それ自体を希望に転化してもよい。それはどちらでもかまわないし、どちらも優れた人間的方法である。そして僕はもちろん、後者の方である。では、さてみなさん、僕の拙いノートに精一杯共感してください。そして僕に、世界を変えさせてください。…そんな宣伝文句で、締めてよろしいだろうか?。それでは、また。


散文(批評随筆小説等)  哲学者、芸術家の世界を変える方法について Copyright yamadahifumi 2014-06-14 07:16:43
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