紫陽花及び肺臓移殖手術
高濱

懐旧には
花崗岩の石碑
夥しく十字架型の翳
無銘墓碑群には
褪紅の光芒の裡なる具象の聯なり

残酷劇が現実を越境する
克明に狂い往く
檻舎の鋼の鉄柵に
懲罰房に黴塗れの種入麺麭と
悪く為った牛乳を嚥下するのは

基督者の美しい愛憐は歓喜し――
――死の讃歌を瓦斯燈に揺れる炎へ擲つ
  
忽ち純血色の遺骸櫃より
両腕を展ばす
老シュルレアリストの晩餐図に
十二の検死官

精神分裂病のメシア
牛の子宮より
呼ばう声すなり――

偶像破壊運動煽動の青年は街宣車に喚き
抽象彫刻家達は
諷喩する
駅前広場の銅球さえも
概念的偶像に過ぎぬ

醜く冀願せる教会伽藍の白痴のマリア
ビスケット罐に画かれたる
爛熟の麦穂は
欧州的なる優美性
薇や花萼や僭越なる神々
平面幾何学形庭園や翼の型の飛梁を
否認し
絶対抽象的形象の唯一の具象
簡素なる椅子の展開図を
死より死へ去り行く巡礼の踵へ
錆釘の如く纏わり附かしめるであろう

強心剤を打つ
看護師達は
顔覆布掛る移動寝台の滑車へ糾う
白絹の繊維を
絞首刑の
同性愛者や
精神病患者
薬物中毒者の雨曝しの腐肉はこそげ落ち
ユダヤ的教条の尊守者は
吐気を堪えつつ

アメリカの宣い給える現実を
欺瞞と貧困と搾取の泥濘に抛り出すも
強制収容所への鉄路は
錆附きたる黒血を糊塗し昏かりぬ


自由詩 紫陽花及び肺臓移殖手術 Copyright 高濱 2014-05-06 04:25:33
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