肺結核の神学論
高濱

ピーテル・ブリューゲルの塔が部屋の中央に屹立し
周囲を侏儒の叛逆天使たちが蜻蛉の翅を以って飛び交す

絵画美術は幻視の領域にまで後退し
観念的な支柱を破壊された現代神学の修道僧たちは
科学的絶対抽象主義の潮流に幾何学形の黒を開く建築群に蟄居し
その部屋部屋には死の影が濃く纏わり伝い
塗潰された黒薔薇の反転写真は縦横に引裂かれる

向う側には驟雨滴り落ちる切窓の
紫陽花がプトマインに白く褪色し
伽藍堂の縊死人は振子の往還に二重視され
暗喩の聖人群の捻れた裸体は
更地の葡萄樹を収穫する彫刻家の鑿と石蝋製軟膏を喚起する

二重螺旋階段の失踪した裸婦は静物の無花果をイコノグラフに象徴として浮遊せしめ
聖像破壊以降に誕生した嬰児の卵膜は
薄乳色の大理石に閉じ込められた
アンモナイトの象を世界の秘密の如く堅持し
渦巻模様の綜合体としての蜘蛛の巣の板ガラスには
銃の跡の有り、
修道女の小銃が射ち落とした七つの脚 或は日曜日の聖なる燭台裡に
倒壊する鐘楼建築の幻燈装置


自由詩 肺結核の神学論 Copyright 高濱 2013-10-16 03:40:51
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