初めての夏
竜門勇気


とうきびと甘藍を甘味の極と思いながら
私はラジオを聞く

癖のある言葉ではあったが
それは今思えば文語の終わりでもあったかもしれない
そこに意味をなくした文語が
断末魔を告げた 夏の暑い日だった

父は最大の潜水艦で
臑の肉を根こそぎ刮げ取られて
終戦前年にラバウルで
東條英機が向かうはずの場所で
息絶えたと聞いた

とうきびと甘藍
甘味は国土では共通語だった
それのみならず
根葉問わず「甘い」ということは
盗みと闇市での強さだった
やがてGHQとの摩擦がまんじゅうや
かの名高いハーシーを生み出すまでは

父の臑は私にとって誇りであった
小学校では潜水艦乗りの子は少なく
また海兵は未婚の人類には魅力的だった
その理由は分からないが
海という囚えることのできない場所で
己を守るという自立性の強さが人に幻想をもたらしたのかもしれない

だが尋常小学校も5年を待たずして
風色は変わった
多くは語ることすらはばかられる
大本営という単語すら
魔女の話す語として認識された
日本という私達が
何者であるかその時決められていった

母は言葉少なに人生を終えていった
玉音放送から正月を三度またいで行われた
父の回忌とは似ても似つかぬ姿で
しかしその後の父の法要とそれは似てはいた
寂しく、腹が立つほど誰も来ないという点で

父の吹き飛ばされた
臑は今どこに
それがあればいまわのきわで
どのような気持ちで逝ったか
受け継ぐことも出来ように

父の海に散った臑は
何者にもなっているだろうに

僕はそれを恭しく拝聴しながら
父の父の死を思う




自由詩 初めての夏 Copyright 竜門勇気 2014-04-19 02:39:12
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