色褪せた後日譚
rock

海の色が黄土色だったのを見て
僕はそらが分裂するような眩暈におそわれた

やまももを今朝、摘んでから胸ポケットにいれたことも
忘れ果てて、じんわりと果汁が胸のなかにひろがっていた
目が覚めてからどれだけの時間が泡になって消えたのだろう

この街のすべての葬儀に参列することが
僕の唯一の仕事であり権利であり義務であり余暇であれば
簿記なんかを勉強する必要はない
黒い腕章が僕のジャケットにつけられ
花環がその棺にいくつも投げ込まれた

いつか客船からパーティドレスに身をつつんだ婦人たちが
そうやって黄土色の海に白や赤色の花環を投げ込んで
海面に落ちた瞬間に花びらは散り色褪せていった

象牙色のセーターにウィスキー・ソーダの弾ける炭酸が
いくつも飛び散っていた
僕は姉を侮辱した言葉を吐いていた
遠くの景色を見るような目で残酷な言葉を残して去ろうとした僕は
姪のルイザによく冷えたウィスキー・ソーダをぶっかけられた

絵描きになった友人は憐れむように僕を笑った
海の向こうでは慰霊祭のために
外国の花を摘んだ小さな帆船が振り子のように揺れていた

まるで蜃気楼だろうと、振り返りながら
彼が言ったとき、陽ざしは額縁のなかにまで入り込み
その太陽のひかりの屈折が新しい絵の具の色になったように彼の絵はきらめいていた

彼が映り込んだ七〇年代のフィルムには
あの黄土色の海と同じ淋しさに満たされていた
すべての花の色を無に帰すような


自由詩 色褪せた後日譚 Copyright rock 2014-03-30 03:14:26
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