粗忽な男
あおば

              140323


粗忽な女なんか存在しないと
その男は思った
粗忽者はすべて男なのだと確信した
山間に住んで次第に山男のような風貌となり
里に下りてこなくなって半世紀
下りようとしたときには
杣道も塞がり
獣道だけになり
老いた男には降りられなくなってしまった
虫の知らせてチャーター機が降りて引き上げられた男の服装はボロボロになっていて
まるで仙人のような格好となっていて
一躍人気者になってしまった
人気が出るのに年齢は関係ないと豪語して
体験記を執筆中
ことばも文字も忘れなかったのは凄いとこれまた評判となり
版を重ねること20版
よほど自信がなかったのかと冷やかされながらも版元は
借金の山に埋もれる覚悟が出来ていないのだからと言い訳を吐いてこれまた話題となり
いつの間にかこの男も作家気取りで世を送った
そんなことを考えていると
ろくな人になれませんよと諭された宵
砂金を借金で探せ髑髏
千人力の山男
一人だけの連帯を強め
個人的な色彩で山を真っ赤に染める朝ぼらけ
すべては粗忽の地層に埋もれることなく混じっているから
この杣山だけは高く売れないと子孫が嘆いているのを知るよしもなく
終わりのないパン粉を売り歩く休載中のキャラクターが滑って転んで
こんがりと揚げられて
お八つの時間に配られていつの間にか無くなり
夕方までの緊張の糸を緩めることなく安定に維持するのさ
標語付きのパンだけが売れ残る午後4時
売れ残りのパンの味だけが妙に塩辛く感じるのは気のせいだと
いつもより水を余計に飲んでノルマを果たす律儀者が
粗忽な男にやりこめられる苦い顔を見て
ブラック珈琲を口ににたにた笑っているのは僕


自由詩 粗忽な男 Copyright あおば 2014-03-23 21:48:24
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