麦踏み
あおば

               140321
母国を拒否する現在の遊牧民は
国境を意識しないではいられないから
母国も異国も敵対するもののように感じられてしまうのだろうか
遊牧どころか
犬を飼うのだって大儀だと思っている僕は
野良猫に餌をやる程度が身分相応と思っているが
猫も屋内で飼うのが奨励され
野良猫も激減
餌をやったりしたらすぐに叱られる時代ととなってしまった
家がないと
ペット可の部屋がないと
猫も犬も飼えない
小鳥も飼えない
外で悪戯するカラスでも眺めるしかないのだと拗ねていると
遠くの畑で麦踏みしているのが見える
後方からは巨大なコンバインが快調な音で迫ってくるから
麦踏みの親子は顔を真っ赤にして足を速めるしかないのだが
もう1時間もすれば追いつかれて身体毎バラバラに轢かれてしまうかも知れないと思うと
眼を覆いたくなる光景だ
右方に眼をやると
進水したばかりの異国の航空母艦が新型戦闘機を満載して西の海へと出航するのが見えた
左方に眼をやると
隣家の軒が邪魔して何も見えない
ただコンバインのエンジンの音だけがリズムカルに無機的に音を高めているだけだ
無惨な光景に目を背け窓を閉めたところ
飼ってもいない野良猫が2匹三つ指をつくように両手を揃えて坐っている
僕は何も与えるものがないので狼狽して目を逸らすしかなくなり黙って目を瞑ると
付けっぱなしのテレビが外国人労働者受け入れを労働大臣が語っている
麦踏みを担当するのは誰なのか説明なしに受け入れるとしたら
自分たちの姿が明日の日本の希望となるのかどうか覚束ない
特別天然記念物にでも指定されない限り
麦踏みの役を振り当てられる可能性があるのに
誰もこれを俎上に挙げることなくペットは屋内で飼いましょうときれいごとばかり言っているみたいに聞こえる
今週末は良く晴れるからコンバインも故障することなく快調に作業を進めるだろう
懐中時計に眼をやる暇もなく負けないエース投手も機械の機動力には敵わない
彼が最後に輝いたのは初めて親子で麦を踏み出した初春の朝だったかもしれない。
その恐ろしい光景を想像しながら温州蜜柑の皮を剥き一房ごとに甘みたっぷり賞味している。


自由詩 麦踏み Copyright あおば 2014-03-21 19:10:40
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