冬と波
木立 悟





ひとつの夜が
わからぬものに照らされている
影は別の影のなかで
少しずつかたちを変えてゆく


夜へゆく海
線を見る背
置き去りの器
蒼に満ちる


魚のかたちの水のかけらを
指でつまんでは捨ててゆく
つまんでも つまんでも
虹は 尽きることがない


その日の音が聞こえない
音であって 音でないもの
そこにあって あたりまえの音


誰にも知られず金になり
やがてそのまま黒となる
霧の斜面を
抄う手のひら


門の影 柱の影
二重の影に照らされる空
白と灰をかきまぜながら
過程の無い身体を投げ出している


爪弾く方へ近づく水紋
城壁の夜を巡る幽霊
硝子瓶をしたたる文字
人ではない静けさに満ち
あふれる


片方の目をふせ
嵐は川の向こうをすぎる
傾きのまま
時は轟く


橋の真上の
不明の名の雨
境の積み石
ひらく手のひら


川を塞ぐ光に触れ
さかのぼる小さな波を通した
何処かへ行こうとして
たどりつけなかった獣の骸
無垢なるものの無垢を
誰も知らない
波の行方を
誰も知らない























自由詩 冬と波 Copyright 木立 悟 2014-03-20 10:23:25
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