ライアーの娘


いちばん最初についた嘘は
「ぼくはぬすんでない」だった
そこから始まるドミノ倒し
躓きなんてそんなものだ

大きな嘘に小さな嘘
許される嘘と許されぬ嘘
嘘で生きている奴らと
嘘に生き埋めにされる奴ら
神妙な顔をした役者たちが
意に反して喜劇を演じる
そのおかげで俺は気がついた
もちろんそれも嘘なのだが

本当のことは人を傷つけるだけ
抜いてはいけない刀のようなもの
反吐が出るほど安っぽい言い回し
そういうお前も青臭いガキだ
嘘で塗り固めた友情を信じ
嘘を練り込んだ愛情に溺れる
それらはタバコや安酒と同じくらい
この人生に欠かせないものだから

スキはキライ
キライはスキ
繰り返される通過儀礼
そうとも知らずに得意気に
嘘を弄んでいた彼女は
ある晴れた冬の午後に
うっかり真実を覗き込んで
その日の内に手首を切った
何とか命が助かったのは
彼女が「本当に死ぬ」と言ったからだ

通じるかどうか分からない
異国の言葉を連発し
俺より嘘が上手かった
自称「元大学教授」の爺さんは
イヴの夜にうっかり嘘を踏み外し
ゲイバーのママに刺されて死んだ
ものすごい量の血に雪が融けていた
俺は確かに警官の舌打ちを聞いた

世界は嘘で構成されている
この詩はトイレで書いている
最初の嘘は深く後悔している
もちろんすべて見抜かれている

人殺しが英雄になれるように
嘘つきだって幸せになれる
俺はどこにでもいる平凡な嘘つきだから
当然のように平凡な幸せを手に入れた

「パパは今まで嘘をついたことがない」
幼い娘にそう言ってウインクすると
彼女は「うそつきー」と笑った
俺は生まれつきの嘘つきだから
いま手元にある本当のことと言えば
この無邪気な笑顔くらいだ
この笑顔を守るためなら
俺は嘘をつくのをやめたっていい
もちろん俺には最初から
娘なんていやしないのだが


自由詩 ライアーの娘 Copyright  2014-01-31 15:24:53
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