「変身」
月形半分子

静かな昼下がり、図書室に入ると

カーテンからまいあがる埃が光のなかで渦を巻いていた

私は美しいものになりたくて夢みがちに書棚をめぐりあるく

時々、ひんやりとした背表紙の感触を楽しみながら

突然、私の指に痛みがはしった

見ると、カフカ全集のなかから

刺のある虫の足が数本這い出ている

徐々にそれは、醜い姿を私の前にあらわす

カフカは目ざめたのだ

どうしたって美しくなれない私を嗅ぎ付けて

やがて、影が落ちてきて、私は飲み込まれていった

カフカが問う。「お前は何者だ」

問われる私の背中が真っ赤な薔薇模様に裂けると

体液を撒き散らして八本の足が音をたててはえた

気がつけば私は強い牙と毒をもっていた

カフカは笑った

「毒もたんまりとは悪くない!!」

そうだったのか、恐ろしい女!それが私!

カフカが私にまた問う

「恐ろしいほどに女!それもまたお前

お前の望む美とはなんだ!!」

毒虫の喉が血肉欲しさに鳴る。もはや私にとって美はひとつ。

「それは獲物」


床の上、私の腹に日が溜まり

やがてカフカも満足する白昼夢





自由詩 「変身」 Copyright 月形半分子 2013-11-14 00:18:29
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