兵蔵さん
ひより

兵蔵さんのお顔を 息子さんは知らない
息子さんは知らないのだから お孫さんは全くわからない

お名前は 存じております
この街の 開墾のために入られて
のちに
戦地へと向かわれた御方です
戻られたそうですが
まもなくお亡くなりになられたとのこと
その時 息子さんは3歳でした


息子さんは 兵蔵さんの歳を有に越えまして
思うところの深まりを覚えれ
お仏壇の前に静坐され

お孫さんへ
語り始めようとしたの だけど

お孫さんの胸で つまる





思い出のない 悲しみは
ある筈のない 思い出をかきたてて
無くも 有るのだと
語りを残す



散文(批評随筆小説等) 兵蔵さん Copyright  ひより 2005-01-10 12:36:43
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