ファミリアゾーン
ゴースト(無月野青馬)

アズーリに塗り固められた一軒家
この家の長男は
原稿用紙を与えられると
原稿用紙に
“この物語は”という書き出しから書き始めて
“物語”という単語のそのものの蘊蓄などを書き連ねてしまって
延々と本筋を始められないというような長男です


母親はヒステリックな母親です
自分が悲劇のヒロインだという錯覚もしている母親です
父親は庭仕事に精を出す父親です
そこはもはや
デルピエロゾーンのような聖域です


ヌーディスト
長女は
サマービーチでもないのにヌーディストです
アズーリの家の中で
ヌーディストになっています
満月が終わるまでは自分のターンだと信じていて
自分の半身が(なんと)南イタリアに居るのだと信じて疑わないでいるのです


犬小屋の中で
カップヌードルを啜っているのが「私」です
はみ出し者で
厄介者扱いで
バッジォのように居場所を奪われてしまったので
(金欠なので)
「私」はカップヌードルを啜っています
ラブラドールは
骨付き肉に食らい衝いています
「私」に見せ付けているかのようです


父親によってステーキが焼かれる夜
母親は父親に
迎えの馬車はいつ来るのかをしきりに訊いています
長男はキャパシティオーバーで
原稿用紙がまだ埋まっていないようで
“物語”という単語に纏わる蘊蓄が止まらずに
エクトプラズムを垂れ流しています
ランジェリーだけを着た長女は無言で
ステーキを口に運んで咀嚼し続けるのみです
「私」は気持ちを抑えて犬小屋にいます
「私」は一人一人と一匹にレッグラリアートをしてやりたい気持ちを
グッと抑えて
先々の夢を叶える為に
航空券を買います
ここは南イタリアではないから
「私」は錯覚を終わらせて
飛行機に乗り込むのです
「私」はもう、このアズーリから出て行きます


「私」は出て行きます
穏やかな風が吹いていてくれたらと密かに願っています
風が「私」の膨張を一瞬でも冷ましてくれたらと
願ってみてもいるのです
ほんの僅かな希望なのかもしれないのですが





自由詩 ファミリアゾーン Copyright ゴースト(無月野青馬) 2013-10-30 22:51:22
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