心からお悔やみ申し上げます
川上凌

気づけば、便器の奥そこに沈んだうんこをじっと見つめていた。
少し物悲しいような気分だった。
トイレットペーパーで肛門を後腐れのないように拭ってもまだ、
うんこを出したその感覚は肛門から消えずに、
仕方なく指で肛門の皺をなぞった。

時間は有り余るほどにあった。
いまや僕は、飯を喰らい、うんこをするだけの生物だった。
そういえば森山直太朗の歌で、うんこという歌があったな、と思い出した。
「お前はほんとうにうんこだな」だいたいそんな歌詞だったと記憶している。

初めてその歌を聴いたとき、
なんと舐め腐った歌だろうと馬鹿にしていた。
しかし僕は現段階でなんらうんこと変わらないような生き物であり、
まさにその歌のとおりだった。

流されていくうんこをみて、
また物悲しいような気分になった。
ボクサーパンツをあげて、スウェットを引き上げた。

テレビをつけると、有名人が亡くなったらしい。
「心からお悔やみ申し上げます」と若い女のアナウンサーが口の端に
僅かに微笑みをたたえて言っていた。彼女が悲しんでいないことは確かだった。

ああめんどくせ。
虚無感だ。
腹からうんこがいなくなってしまったからなのか、
それとも僕がうんこだからなのか。
どちらにせよ、電波の箱の中にいる彼女は僕の人生を見て、
まったくの第三者、つまり他人の位置から言うだろう。


「心からお悔やみ申し上げます」









.


自由詩 心からお悔やみ申し上げます Copyright 川上凌 2013-10-04 00:06:23
notebook Home 戻る