眠たいからだ
はるな


もうすっかり書くべきこともなくなって、秋です。日向には夏の死骸みたいな光、日陰にははらはらした予感。眠たい身体を持ち上げると、それでもまだ風が通ります。
やっぱりわたしには時間というものがよくわからないし、感じられないので、これが遠いのか近いのか、「やっと」なのか「もう」なのか、あるいはそのどれでもないのか、考えてみてもしっくりこないです。だから一年とか九か月とか、百二十分とかよく数えます。数えて、考えて、理解する、ということは、でも、感じる、ということとはもちろんまったく違うことだし、尊さも及ばない、と思う。
感じるとすれば、すべてをいっぺんに感じる。

このあいだは関西から知人がきて、パンケーキが食べたいというので食べにいった。そびえるみたいにのせられたホイップクリームがテラス席でぐでぐでと溶けてゆくのは滑稽で、久しぶりにあった私たちのようだと思った。
なつかしいなと知人は言ったが、わたしはぜんぜんなつかしくはなかった。なつかしいのは一年半暮した明石の景色とそこにいたときの夫の表情だ。一年半前の夫にはもう会えないのだと思うとたまらない。知人はわたしに変わっていないねと言ったが変わるはずもない。変わるのはわたしではなくていつも土地や時間や意味でした。

臆面もなく、生きて。と、思います。パンケーキを食べたり、笑ったりして。そして夏や秋を過したりして。これから先も、と、考えてしまうことが、たまらなくこわいです。



散文(批評随筆小説等) 眠たいからだ Copyright はるな 2013-09-14 08:40:57
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