紅月

ですから、


ね、
あらゆる、


「わたしから飽和するわたしたちよ、
もうここには語るべきことなどありはしないのです、と
語りはじめる卑怯をおびやかしてください、
かなしいほど平たく青い恩赦で
物言わぬ森や、白砂や、
錆びた指先からひらひらと
剥がれ落ちていくえいえんたちの
眠るみぎわを絞殺してください、」



旋回する鳥の、影の、
街、白い渦、から鉄の指が延びて、
空に突き刺さる、文法、が、
あちらこちらに散見される、
(卑怯だ、)
あらゆる、すべての
ふたたび、を、呵責する、
幽霊たちの、ふたたび、の
骨がからからと残響する、
塹壕する、
きまりごと、
(しってる。)

鳥たちは一様に、
ここに鳥たちはないと言う、
乾燥した風にあおられて、
去っていく被告はわたしだ、
(わたしではないと言うから、)
言うなら、
やわらかな規範だけが
この街のすべてだ、


「ねえ、
すべての窓から、
かげの影が迎えにくるなら、
あらゆる現象を心から祝福できるのにね」

実体をもたない影ばかりが
ここに住んでいるんだよ、それは
ただ羅列しているから、
支離滅裂なんだって、
ね、
なんだって、
って、
誰が言うの、
わたしでもない、
寓意でもない、
えいえんの、
爪先、

鳥たちは、
縦に並んだ文法の屋上で
かなしい口笛をふいてる、
物言わぬなら、
かわりに羽をあげよう、
(とでも言うの、)
ごうまんなんだって、
平たく青い恩赦で、
きのうの森や、砂や、
指先を食む老いた影を
祝福してあげたい、
白黒に、続く、
街の、高架、それから、
あらゆる、翳りのなかで、
嘘を数えあげる鉄の指、


この窓からは空が見えないから、
どの窓からの景色も隠喩だ、


投身する、文法の、訃報が、
街を、みぎわに呼び起こして、
それから、

あらゆる、


「飽和から、
ふたたび、を、語りはじめるから、
どうかえいえんに知っていてほしい、
鳥は鳥たちではなくて、
幽霊は幽霊たちではないから、
誰もそこからはぐれて、
また、ふたたび、を
数えはじめる、」


あらゆる、
あらゆる卑怯の、
残響する、街、白い骨、
が、あちらこちらに放火する、
燃えあがるえいえんの、
つたなさ、が、
ながくふかい都心の、
みぎわに、ふたたび、
渦を巻くから、
だから、
これがさいごだなんて
言わないでほしい、
みぎわに寄せる波の、
引いては、また、
ふたたびを、返す、
幾度も、
幾度も群れからはぐれる影、
影たちではない影よ、
あなたがたではないあなたや、
わたしたちではないわたしを、
そのたびに祝福してあげたい、
街の、文法、
鳥の、集合の、
あらゆる、ひとつから、
そのすべてから、
(ごうまんでもいいから、)



 


自由詩    Copyright 紅月 2013-08-19 06:34:31
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