『カット! 』
HAL

今日プリンタのトナーカートリッジが届いた
いま遣ってるMacにトナー残量警告のダイアログが出たためだ
用紙も少なくなっていたので5,000枚を箱買いをした

それは明日も書いたコピーをプリンタで
プリントアウトして推敲するということ
経験則でモニタで見逃すミスを発見できるため

でもそれは明日も生きていると想っていること
ひとの明日なんて分かりもしないのに
無意識に明日も生きていて仕事をしてると信じてること

信じていなけりゃ誰が3年は持つトナーを買い替える
5,000枚のプリント用紙を遣い切るのに何年掛かると想う
少なくとも最低でも5年は必要だろう

だけどニュースなどを観ているときっと
そう想っていたひとは多いということに気づかされる
誰だって明日は生きていると信じてそれに裏切られる

ぼくは想い出す
皐月の丑三つ時もそうだった
早めに起きて仕事を片付けるために
目覚まし時計をセットした

でも左半身が動かないのに気づいて眼が醒めた
やばいと何故か想った ただ事じゃないと感じた
そしてベッドからわざと転がり落ちて電話まで這っていった

119番に住所を言った辺りから意識が遠のいていくのが分かった
嗚呼これで終わりなんだなと薄れていく意識を感じながらそう想った
綺麗な下着を身につけているだろうかと妙なことも想った

そして眼を醒ますとそこは病院のICUのベッドの上だった
すぐにそれに気づいて女性の看護師さんが医師を呼んだ
医師は言った 壁時計に眼を遣って1日半意識がなかったと

もう1本違う血管が詰まっていたら
きみは脳梗塞でもうこの世にはいなかっただろうと
今頃は棺の中に横たわって焼かれていただろうと

そんなものだ人生の終わりなんて 明日も生きていると想いながら
くも膜下出血で交通事故で天災で あるいは極端に言えば
誰かに殺される可能性だって絶対にないとは言えない

ひとはフェードアウトのようにこの世を去るのは稀にも稀だ
いつかの朝 いつかの昼 いつかの夜 ひとはカットアウトのように生を終える
そんなもんなんだ人生のピリオドなんて

誰もが明日も生きていると想わなきゃ生きてはいけない
それは奇跡のようなのに自分は生きていると想いながら
突然に『カット! 』の声を聴く

そんなもんなんだよ人生なんて
若いとか 老いてるとか 健康だからと関係なしに
何かが言うそのひとにしか聴こえない『カット! 』の声を聴くんだ


自由詩 『カット! 』 Copyright HAL 2013-08-16 17:37:49
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