大道芸人の独白
佐々宝砂

街路は閑散としている。
だが大道芸人は気にしない。
相棒は等身大の人形だ。
マネキンの手足はてんでに動き回る。

オーケストラはなし。音楽は手回しオルガン。
もの悲しい響きは人に受ける、
明るすぎるメロディは人を苛立たせる、
大道芸人はいつも客の好みを知っている。

いらっしゃい、見てらっしゃい、
愛が欲しかったら、
オルガンにあわせて歌をお歌いなさい、
お客さんの望みを全部叶えてあげますよ。

「共感」という名の麻薬。
「愛」という名の独断。
「孤独」という名の傲慢。
それが大道芸人の売り物。

大道芸人は金切り声で叫ぶ。
愛が欲しかったらあげますよ!
孤独もよいものだと思わせてあげますよ!
お客さんはこんなにも個性的だ、
なのに人に愛される、
愛されないとしても立派な自我を持っている、
なんと素晴らしい!

ひとしきり人形が踊り、
音楽が唐突に終わる。
大道芸人は、
切り売りの愛と夢をカバンにしまいこむ。

一礼して、
街路から消える。


自由詩 大道芸人の独白 Copyright 佐々宝砂 2005-01-04 01:29:25
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