昨日私はロシアにいた
Seia


昨日私はロシアにいた
いたことだけはわかっている

隣のおじさんは虫を戦わせるのが好きだった
時々モザイクがかけられていたが
あれは不快害虫だったのだろう
ゴマダラカミキリが
上目使いでこちらを見ている

勝手に家に上がってきた髭面の男が
寝室の枕をガラケーで撮影している
「昔のケータイの方が味があるんだよな」
聞いてもいないことをぺらぺらぺらぺ
(PSY)と背面に書かれた薄青い機種を私は知らない

直方体と立方体の集合体を
軽やかに駆け登っていく
頂上から見える景色は
山、屋根、山、山、雲はない、山、雪、
足元の穴に落ちると家の畳に尻餅をついた
 
新聞と雑誌を切り抜いて
閲覧用の物語を作っている
作っているというか貼っている
犯行予告のような紙の束を
クリアファイルに差し込んでいく

横に長い突き出し窓を開けると
向かいの白壁に反射した光を
直接身体に浴びてしまう
埃がちらちらと輝いている
意識を失いそうに、そうに、そうに、

昨日ロシアいたことはたしかなんだけど
こっちを見るな、カミキリ


自由詩 昨日私はロシアにいた Copyright Seia 2013-07-29 18:10:55
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