もつれこむ

光の死体に囲繞されている中心部が電車のなかでは反転する。濃い色の髪の毛が重いと呼ばれるのは必ずしもその色だけではなくて、そのものの重力を指し示している。深刻さ。彼女の髪は星星の重さを持っていて、ある一定のリズムで回転することが肉にも位置付けられている。ぼくは彼女の髪を撫でることはできない。彼女の肉は嫌悪で速度を上げるだろう。乱調は星星の常でありぼくのするべきことではない。電車が過ぎる。シートと肌が癒着してきて、彼女という感覚が遠くなる。ぼくたちはゆっくりと距離をあきらめていく。あきらめ、と口に出してなつかしむことさえも憎しみを抱きながら、しかしそれを口には出さないようにしながら。ぼくはある砂漠の夜空のしたに、寂寞とした夜の袂にいる。質量の大きすぎる夜が涅槃図のごとく横たわる。月も見えないで、輪郭としてぼやけた自分の手が、指の境目をなくしてひとつの塊になっている。瞬きを自分がしているのか夜が行っているのかわからなくなったころに、彼女の髪がぼくに降り注ぐ。ぼくは逃げ続ける。網雨が辺りに満ちる。彼女は非常に危ういバランスで足取りを続ける、流砂に足をすくわれないように、泥濘に時を止められないように。砂漠のど真ん中に立った一本の電柱、その周りを回る虫たちの死骸は遠い沖合いを夢見ている。きっとこれらの死者たちはあの淡い腐敗のただ中で彼女の視線に乗せられあの海へ行くのだろう。そしてその思念によって、ぼくは立ち止まってしまった。「ねえ」声がする。神官に見竦められた寒さが月の光でわずかに崩れた。「もう過ぎたんじゃないの」ぼくは電車のなかにいる。彼女の目が少し濁っている。過ぎてないよ、と言った。連結部分が軋んで、そのあとの音は、


自由詩 もつれこむ Copyright  2013-07-08 12:03:51
notebook Home 戻る